やわらか金融道

オタクブログとオフ情報

日記:2021年の秋葉原に雪が降る

elemental95.bandcamp.com

今年はわたしにとってかなり苦しい年でした。
「各々でやっていく」の「各々」に割り当てられた部分よりもっと大きなところでさまざま困難が起きた年でした。具体的に言えばコロナに対する政府の対応であったり、オリンピックを巡る問題であったり、衆議院選挙であったり、入管での事件であったり、上げればキリがありません。「各々でやっていく」という言葉は、各々が他の人に信頼を置き、役割を任せられると思っていることが前提ですが、そういった信頼を社会に対して持ちにくい一年だったと思います。

メギド72では「危機に瀕して抗う者たちの意思が束ねられていることが重要である」と描かれていて、ソロモンは自分がその束役としてリーダーに立つ訳ですが、現実の今はそういった役割の人が極端に少なく思えます。みんな、それぞれに手一杯で社会を見返る余裕がないのと、コロナによる物理的分断がそのままわたしたちの連帯にヒビを入れている感触です。

ただし一つ良かったことは、問題を前にしたらはっきりと自分の意見を表明する人が増えたことです。言及せざるを得ないくらい問題が肥大化した、とも言えるのですが、特にオタクアカウントではなんとなく避けていたような話題について、いいねやRTといった気軽な手段も含め、その人がどう思って生きているのかというのが立ち上がってきたように思います。フィクションの作品が現実の問題と不可分であるように、すべての活動は政治的で、オタク活動もその例外ではないし、切り分けて考えることは本来難しいと思います。オタクが熱狂する作品というのは、やはり強く現実との連関をもって描かれたものの訳ですから、エモーショナルな甘い部分だけ吸い取るのではなく、消費の仕方や関連する現実問題についても同時に語っていく必要があります。そういった話はしやすくなったのかな、と思います。

わたしの今好きなメギド72という作品は、社会体制の大きなうねりや歪みを作中で描くので、現実に起こっている問題とマッチすることが多く、オタクたちもフィクション・現実を同様に切り込んでいっているような気がしてありがたいです。ただの体感ですが。こと二次創作同人であっても、繊細に現実を眼差された作品は強度が高く信頼できるので、これからもどんどん言及が躊躇われない風潮が作られていけばいいなと思っています。

今年のできごと

引っ越しをした

物件に問題があったことや実家から初めて出たことなどが関係して、自分のキャパシティを超えてしまったのですが、今はどうにか生活が成り立っています。今年、あまり生産的な活動ができなかったのですが、引っ越しという実績のおかげで自分に対して寛容になれていると思います。また、一人で落ち着いてものを考える時間が増えたことで、思考がクリアになり、何を信ずるべきで何に問題を感じているのか、自分の心により素直になってきました。

もちろん悪くなった部分もあります。自分の考えがよくわかるようになった分、その重みに耐えきれず、アルコールなどの酔いに頼りやすくなってしまいました。来年は思考を昇華する方法を見つけていきたいです。

一人暮らしは生活を組み立てていくような感覚があって、そういった意味では初期アバターからようやく汎用家具を入れたくらいの暮らしでしかないのですが、なにごとも急ぐことなく、少しずつ向上させていければと今は緩やかに構えています。

また、一人暮らしを始めたことで、自分の手がどうしても回らない部分が増えて、結果的に自分に寛容になりました。わたしは醜形恐怖の歪みがずっと消えず、瘡蓋を全て剥がしたり、自分の顔にカッターを当てたりしていたのですが、それが落ち着いてきました。食事を取るときも強迫観念が減って、食べたいものを少しだけ食べることができるようになり、食べることへの苦しみがだいぶ緩和されました。生活に大きく関わってくる部分なので、本当に良かったです。

本が読めるようになった

ここ数年まともに本を読むことができていなかったので、嬉しい変化でした。電子書籍が中心でまだハードカバー一冊を読み切る体力はなかなか戻ってこないのですが、これも多分経過で改善されるな、と推し量ることができるようになりました。自カプの分厚い小説同人誌が読めるようになったのがとても嬉しいです!!!

新しい手仕事を始めた

これはごく最近のことです。これまでの人生、何かに集中して取り組む、積み重ねる、ということを疎かにしてきたので、ヤットコを持っていくつもパーツを繋げている時間は地味ですが新鮮です。技術は足りないなーと思うこともあり、それは要成長なのですが、なによりも一つ一つ小さな達成に辿り着くことは自信にもつながります。一人暮らしを営んでいくことと同様、明日の自分を信頼して割り切る、今日の自分の領分を知って、確実に行い、それを繰り返す、そういうことが落ち着いてできるようになっていけるといいなと思います。

またその仕事の関係で新しい人と関わることになり、善意のコミュニケーションを自分も取れるのだと気付きました。鬱になって以来、他者との関わりが怖くなってしまって、常にプレッシャーや後ろめたさを感じていて、それが改善されていけばいいな、と思いながら夜毎ちまちまと仕事をしています。

タトゥーを入れた

先ほど書いた通り今年は困難の多い年でしたが、わたしにとってその結集点とも言えるべき日がありました。この状況下でのオリンピックの開催、開会式の演出の問題や社会的受容のされ方、そこに関わる話題で友人と口論になり、その怒涛のような数日で、自分のスタンスを見返ることになりました。口論になった相手とのコミュニケーションの取り方や、自分が社会に出て意見を示す時のやり方など、非常に悔いが残る部分が多く、それを忘れないために日付をタトゥーで入れました。メギド72でいう「碑」の役割として、自分の左手をよく握ります。わたしという個人が社会において果たすべき責任はもちろんのこと、それをどう果たすかの方法論を考えなければならない、考え続ける必要がある、とタトゥーを見るたびに思い出します。

また、ボディポジティブの意味から言ってもタトゥーを入れたことはプラスになりました。疾患のある自分の体がとても嫌いで違和感があったのですが、タトゥーを入れた部分は自分のものになった感覚があります。関連して、髪をとても短く切り、グリーンやオレンジに染めている期間がありました。タトゥー、染髪、ピアスなどで身体をいじることと自分の精神を自分の身体に保つことは相性が良いのかもしれません。わたしは前述の通り、元々自分の体を針で刺していたので、ある意味当然とも言えますが。無計画や衝動でさえなければ、タトゥーもピアスも楽しいカルチャーなので、自分の身体と相談しながら付き合って行けたらいいなと思います。

即売会に出た(2回)

10月のビッグサイトと11月のWEBオンリーに参加しました。どちらも新しいものを捻出して持って行くことができました!

夏はかかりきりで10月新刊の原稿をしていて、これまでで一番ボリュームのある本になったので思い入れも強く、イメージソングでサントラ風のリストを作ってみたり、引用文のある同人誌にしたいなーと思って本棚を漁ったりしていて、結果できた本はとてもお気に入りの一冊になりました。小規模サークルなので何年も頒布していることが多いのですが、何年経っても自信を持って読んでください!と言える論文のような本になりました。

10月のビッグサイトは、やはりこの2年で一般参加者がぐっと減ったのを感じましたが、それでも少しずつ戻ってきているな〜と思いました。あんスタもメギドもそうなのですが、ニッチな本を出されている方が必ずいらっしゃって、そういう出会いは会場でしかないものなので、リアルイベントは楽しいです。前々日に公開されたシナリオを読んで前日に本を作って当日頒布する、という超特急本を出したのですが、アドレナリンがガーッと出るのを感じました。結果的にかなり良い本ができたのも嬉しかったですし、こういう極道入稿ならまたやりたいなと思いました。今回はカップリングのプチオンリーだったので同CPの方が結構いらっしゃってお祭り!という感じでした。当日企画も楽しかったです。

11月のWEBオンリーは初めてのサークル参加だったのでやり方を迷うことも多かったのですが、オフよりも積極的に色々な方に自分の言葉を伝えられるとても良いところがわかりました。また、当日書いて展示物を追加してる方もいらっしゃって、昔の即売会の色紙みたいだなと見ていて思いました。会場がとてもかわいく作られていたのがすごく嬉しくて、やたら歩き回ってしまいました。

後述しますが真田つづる先生の『わたしのジャンルに「神」がいます』第二シーズンの更新時期がちょうどこの辺りの同人注力期間にかぶっていて、読んでいてすごく気持ちが入ってしまいました。

同人誌というのは「好き」が迸った産物なので、内容がまとまらなかったり、途中で終わっていたり、蛇足がついていたり、本当に各々が自由にやっていて、それを見ると自分でも好きに書いていいんだと思うことができるので、大好きです。あまりにもありのまま無防備な誰かの「好き」を手に取ることができる文化、すごく希少で替えが効かないと思います。同人誌のことが大好きだし、即売会のことが大好きです。

次のオフは2月の予定で、出したい内容も決まっているのですが、スケジュールが許すかな……。本が難しそうであれば何か工作とかしたいです。特殊なコピー本とか……

今年感動したこと

劇場版少女⭐︎歌劇レヴュースタァライト

cinema.revuestarlight.com

とても良い作品だったことはさまざまな方が既に述べていることだと思います。卒業や役を離れるという「別れ」を描いた映画でした。当て書きされた役を纏って、役だからこそ言える柄にもない台詞や、舞台だからこそできる生や死、空間を超える表現など、演劇歌劇に対する大きなリスペクトを感じました。これが映画としてリリースされ、多くの人がスクリーンで見る≒観客になるという構造を巧みに使っていて、素晴らしかったです。古川監督の新作も楽しみです。

木原音瀬『箱の中』

bookclub.kodansha.co.jp

今年一番興奮したBLでした。箱の中=刑務所の中で出会った二人の話です。喜多川(攻)の子どものように「言ったことしかわからない」ところ、自他の境界が曖昧なところと、堂野(受)のみじめさがうまく絡み合って、距離を詰めて行く様はなんだか不穏ですらあり、同じ家で暮らすようになるエンディングにはなにも後ろ暗いところはないのに何か後味が悪いような……。木原先生の作品はほかに『ラブセメタリー』しか読んでいないので、これからもっと読みたいです。

長谷敏司「allo, toi, toi」『My Humanity』

www.hayakawa-online.co.jp

ペドフィルの強姦殺人死体遺棄犯の獄中生活を描いたSF作品です。塀の中で暴行を受ける主人公の不安定な自我は、脳内に構築された機器が見せるやわらかな少女の幻覚に陶酔するように導かれるのですが、結局のところ犯罪者は犯罪者であり、刑務所内の凄惨な現実は変わらない、という終わり方に主人公と作者の距離を感じました。好き嫌いと快不快の混雑した結びつき方が提示されたパートは面白く、そういった理念的な部分を主人公が捻じ曲げて理解している、という掘り下げ方によって、彼の認知の歪みを表現しているところがとても上手いなと思いました。

飛浩隆『自生の夢』

www.kawade.co.jp

文字、センテンス、詩によって描画される複世界のお話です。ある表現(たとえば絵画)をモチーフに取り上げたいとき、普通は他の方法(たとえば評論)を用いることをしますが、この作品はどちらもが言葉であって、なおかつそれに失敗していないところが驚嘆に値します。登場人物たちも非常に興味をそそられる魅力があって、アリスと克哉の数奇な巡り合わせにはオタク的な興奮を感じました。

テッド・チャンあなたの人生の物語

www.hayakawa-online.co.jp

これもこの小説が書かれたことに意味がある、というタイプのお話です。異星人との交流を通じ、彼らの帰着的な言語や記述法を解読しながら、主人公の人生もまた結論から巡るように描かれるという独特の形式を取っていて、面白いです。テッド・チャンの作品をいくつか読んだのですが、言語学に明るいようでそういったアイディアを中心に据えたものが多く、少し勉強してみようかなという気になりました。

真田つづる『私のジャンルに「神」がいます』

www.kadokawa.co.jp

初期から追いかけている漫画で、1巻が発売されたのは去年のことなのですが、今年の第2シーズンにぐっときたので入れました。綾城さんのことはもちろん「いるよね~!!」という感じで好きなのですが、むぎさんや好野さんや蓮見さんの等身大さに強く心を動かされて……自分も丁度原稿をしていた時期で、「なんのために?なぜ?これはなに?」と目をぐるぐるさせていたので、この漫画に迷いを振り切ってもらったように感じます。ジャン神は必ず創作賛歌で終わるところが素晴らしくて、わたしもこうなりたいです。

メギド72 9章2節

好きすぎて既にブログにはしているのですが、本当に良かったので……。

yawaraka-kinyudo.hatenablog.com

生まれてくることを自ら望むことができないというのは、すべての生物が持つ構造上の欠陥であり、21世紀の私たちの心の掃きだめであると思います。生まれ落とされる環境は多様で、既にそれが見えてしまっていて、生を肯定する言葉はいまや力を失っている現状がたしかにあります。そんな中で、メギド72の打ち出す「あなたが生まれてくることを望んでいる」というメッセージは丁寧かつ入念で、この世界の屈託をそのまま抱きしめてくれるようだと感じました。メギドの、こういうふうに現実の社会の中にあるシナリオが本当に大好きです。サントラでこの部分に使われた楽曲のコンセプトを聞いて、より好きになりました。

メギド72 イベント「そして灯火は静かに消える」

megido72-portal.com

今年のメギドは愛を下敷きにしているシナリオが多く、このイベントもその一つです。灯台のあかりを灯し続けるように行方知れずの兄への愛を継ぎながら、長い時間を生きているウコバクが中心となっているイベントでした。ウコバクと兄・モノバゾスの間にあった愛は、メギドとしてもヴィータとしても肯定されず、今となってはウコバクのみが確信するものでしたが、フォラスが愛を知るために生きる彼女を肯定したことで、世界に絶望することなく生きていける、というとても良い話でした。ジェヴォーダンという黒猫とウコバクの関わりもとても好きで、そう望まずとも既に愛の中にあったのだと、ウコバクが伝えられるようになったことは、愛の火を分ける彼女の性能とも一致して、ささやかながら重要なシーンであったと思います。

メギド72 イベント「虚無のメギドと儚い望み」

megido72-portal.com

これまではコミカルなロールに立つことの多かったインプを掘り下げたストーリーでした。ヴィータたちもストーリーに大きくかかわっていて、一人を除く誰もが自分の大切なもののために動いているのに、解き明かされた結末は虚無的で何も残らないという、取り残されたような後味を強く覚えています。ナイロン100℃「消失」を強く連想しました。

このシナリオは死者の尊厳という面から読むとまた違う色を見せてくれると思っていて、インプの「自分みたいなのは他にいてはならない」という意識は、作品内でのヴィータの死を絶対的で揺るがされないものとして位置付けているのではないかと思います。

ブリフォーのキャラクターもとてもユニークで好きだったので、もっと掘り下げが読みたいです。

ままごと 「あゆみ」

ayumi2010.exblog.jp

友達にDVDを見せてもらって、とても印象に残った作品です。11人の役者の体を複数の役が横断していく演出が面白いのですが、それではともすると誰がどの役をしているのかわからなくなってしまいます。それを照らされる道においてのみお話が進むように舞台を作ることでクリアしていたのがテクニカルだなと思いました。また入れ替わり立ち替わり役が演じられることで、この話を普遍的にする効果を得られていて、シンプルで素直なタイトルに見合う、率直な作品に仕上がっていると思いました。

米津玄師『Pale Blue』

youtu.be

米津玄師を2015年くらいから追っていて、ずっと歌は好きだったのですが「歌が上手い」と思ったのはPale Blueが初めてでした。離婚をモチーフにしたドラマの主題歌ということで、歌詞も「恋をしていた」から始まるラブソングになっているのですが、彼の持つ郷愁的な世界観が強い支柱となっていて、唯一無二であることとシンプルな強さを両立させているのがすごいです。原稿をしている間よく聴いていました。

今年も憤慨し落ち込み泣き散々な年……だと思っていたのですが、こうしてつけてみると収穫があったことを再認識できてとても良かったです。来年は少し大きな目標も設定しているので、気負わずに自分なりに頑張ろうと思います。