6回目のメギドの日おめでとうございます。
5/28に頒布した短歌集から、祖メギド全員をイメージした短歌を再録します。
あなたがもしかしたらもうとうに忘れているかもしれない、かすかなことに助けられていて、それをかすかと思えるまでに人生が拡張したことは、あなたのおかげだけではないけれど、そのなかにあなたがいることがとてもうれしい。
人がなにかにすくわれるということは、平凡に生きているとそうそうあったものではなくて、だから、すくわれたとき、わたしたちは大きな流れに帰してくれたあなたのことを忘れない。
わたしのえいえんの一瞬が、あなたのまばたきのなかにある。
あなたが未来を見つめるとき、わたしもそこにいる。
そうしてつむがれた世界で生きていく。そんなことを誰も知らないままで。
- お別れの雨はかみなりを呼ぶ その光あなたの窓に見えますように
- 水底の石はずいぶん丸くなり今この湿った手のひらの上
- 降り積もる埃を払う橋の下 どこまで逃げる?青い霜焼け
- 泣く犬は首を掴まれ去る 同じほどは鳴けないのが二足歩行
- わたしは光りながらゆく。踏み分けた若い草の根も光っている。
- 潰れた眼の黒を埋めるように振り上げてきたダガーもいまや
- 火の中をゆく黒い足の裏側で踏んだ噛み菓子こっそり剥がす
- 唇に勝利の歌を 絶望の中には俺の甘い囁きを
- 棘があるから薔薇は薔薇 戒める城への道を君は駆けゆく
- little little star はここに落ちてきて時々クセで光って見せる
- 何度目のもう負けないを唱えてる おまじないとか信じていない
- あなたはまたうまれる。どこかであなたは世界の一部になっていくのだ
- ありふれた喪失、ありふれた蹂躙、夜も歯を食いしばっている
- 生皮を剥ぎ肉を脱がせるとき情けなどあるほうが情けない
- 小指から羽ばたいていく甲虫は高潔なほど煌めいていて
- 心臓を焼かれながらも踊るのは真紅の薔薇は恋知らぬから。
- あなたがあなたでありますように。日記は灰になって空を行く。
- 花に毒、茎には棘があるままにただ咲いている ただ咲いている
- 流されるように、ただ波に抗う櫂を落とさぬように
- 言いたいことがある。それだけで駆けていける、世界は尚更ひかる。
- 呪いを絶つための斧。さようなら、もう生きていく場所は知ってる
- 息絶えるその瞬間にこそ輝ける命。命、いのち、その震え
- おひさまの熱でパンを焼く食卓。たまにマーマレードがしょっぱい。
- どこまでも着いていくから捨てないで、と見上げることも忘れたような
- 大阿呆推参! この世の全て炭酸にしに参りました。
- 地獄さえ引き裂く龍の目覚めには代償だってつきものでしょう?
- 吐瀉物が落ちずに汚し続けてる 一人 凍れる夜の川上
- はりぼてのアルミの羽につぎはぎの誰?天国までも飛べるだろうか
- 退屈は白くて丸い あなたはこの世で最も黒くて多角的だね
- 氷から生まれていつか溶けていく。その過程でぶつかってしまった
- 妻に似た右上がり字よどこまでも続け練習帳を広げて
- 最初から泥濘にいて、それがただ形を取って燃えているだけ
- 戦いを知る目 戦いを知らぬ手 重ねるまでに流された血の
- ただ明日生きてくためのチーズ入りクリームシチュー おやすみみかん
- 今ここで踏みつけられている人と、いつか蹴飛ばされる人の差は?
- 道端で開いた花は描かれるために咲いたの?はい・いいえ
- 炎から生まれ何度も燃え上がる。卵の殻を幾度も破る
- どちらでもあることばかりの世界ではいちごジャムを選ぶのも苦しい
- 積み上げたジェンガはたとえ崩れても震えない手で静かにそっと
- 能(の)武(ぶ)礼(れい)壽(す)・御負璃(おぶり)ー寿(じゅ) ただこの拳は誰かのために固く結んで
- 誰かから跳ね返ること刃で磨かれる二度とは折れぬ焼刃として
- 誰しもが海から生まれ土に還る あなたの街に私も帰る
- 矮小で無力な僕らの英雄が体に背負うやさしい重さ
- 菌類の編み上げた地図 世界って広くて冷たいけど息してる
- あなたの注ぐ慈しみ、清流の流れは速く波駆けるよう
- 命には避けようもない終わりなら 何度も叩くマイナー7
- かくれんぼするときわたし光でした 食べこぼすまで不可視だったの
- いつだって下を向いてる 落ちたコイン まだ食べられるカビかけのパン
- 道のない軌跡は蛇行しながらもいつでもその時を踏むのです
- 裂けた肌より覗くその色は殺意かそれとも名があるものか
- これからも末永ゝとよろしく、飽きるまでこの道を行こうぜ
- 凶報は寝て待て いつかあの時に刺せる刃を握りしめつつ
- 今ここで踊れ 私はかき乱す者 火を放つ者 狂えない愚者
- あなたの温度って、ほんの少しだけ低いから、もう踊りに行こう
- この世でもその世でもあのどの世でも異物 草食動物の骨
- 真珠より薔薇よりあなたを飾る傷 唯一値段もつけられやしない
- 山の中では生まれたままだったの あなたが輪郭を作るまでは
- あなたには踏ませやしないこのライン 燃ゆる絹糸すべてを絶って
- 裏切られ叶わぬための占いと未来に進むためのまじない
- 分け入れば粒立つ命の音がする土と樫との印象の人
- 散るようにひらめけ赤いムレータよ命の交差は軽やかに
- 手のひらを器の形にしてみればただ零せないものばかりあり
- 俺を見る俺を見る俺の視線を感じて見上げてる俺の目
- 中指を潰せる錆の付いた杭 引き抜くほうがなお難しく
- あやとりを手伝わされる午後に見る残月はただ一つばかりだ
- 結果だけ手渡されるのだ つやつやのレインコートを光らせながら
- はじめから空洞なんかではなかった。あなたの洞が丸まっていた。
- 目を伏せて味のないガム噛んでいた頃と空色が違うような
- 廃村に咲くトリカブト 誰も居ぬ場所では役に立たない薬
- 湧水を汲むごと妹を抱きて外の世界を見せに走れり
- なにもかも嘘ですと君が言い出す日のことを思えば眠れぬ夜あり
- 赤色のスピンを挟む頁探すときの気分であなたと別れ